保護者、地域、学校、ITベンチャーがコラボして小学校の授業づくりをしてみました

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未来に通じる「新しい学び」の場を

自動運転、宇宙旅行、温暖化による地球環境の変化、少子高齢社会、100年時代。子どもたちが大きくなったときの未来はどんな世界なのでしょうか。現在も戦いが続くコロナウイルスのように世界的な対応が求められる課題や、バックグラウンドが異なる多様な人と向かい合うことが増えていくことは想像に難くないです。

瀬戸内海の離島、男木島に住む保護者が中心となって立ち上げた「男木島、未来の教育プロジェクト」(通称:みらプロ)は、2019年6月の立ち上げから9ヶ月が経ちました。与えられたものをこなす学びとは異なる、次の時代で自立していくための新しい学びの形を子どもたちに提供したい、という想いで活動しています。

「男木島、未来の教育プロジェクト」は学校での10コマ分の取り組みを3月頭に終え、一つの区切りを迎えたところです。今回の記事では私達の活動についてまとめました。教育について考えている保護者の方、教育関係者の方々にとって参考になれば幸いです。

大人の会議の一コマ

コロナウイルスで意識した学びの新しいカタチ

この9ヶ月の間には、コロナウイルスの出現で学校が一斉休校となり、未知な出来事に対して難しい決断が日々求められ、あっという間に日常が非日常となる出来事が起きています。今回のコロナウイルスを取り囲む環境は、技術によって発達した移動手段がウイルスを広め、一方で、感染情報やウイルスについての知見が国々で日々発表される様子など、現在の世界をよく表していると思います。

子どもを持つ親としては、このような未知の未来を生きていく子どもたちにとっての教育を考える機会にもなっていると感じています。一斉休校によってオンラインで学べるツールの多くが無償提供をし、学びの機会や自由な時間が増えて、この期間が子どもたちに与える影響についてはまだ見えてきませんが、興味深く考えています。

みらプロでも、学びの主体は子どもたちと捉えて、ゴールのない学びを、子どもたちよりも少し大きい20歳代の若者や働き世代の30-60代の人たちがサポート役として入ってます。

「男木島、未来の教育プロジェクト」が目指すもの

「男木島、未来の教育プロジェクト」は保護者、地域と若い教育関係者(大学院生や高松市内でプログラミング事業を行うITベンチャー)が中心となったボランティアです。ビジョンは、

変化の時代を生きる子どもたちが、それぞれの持つ本来の力を活かし、「未来を自ら創る力」を築くことを目指しています

を掲げています。「男木島、未来の教育プロジェクト」の発足経緯についてはこちらをご覧ください。

小学校と「男木島、未来の教育プロジェクト」コラボ方法

3学期から始まった、みらプロと小学校とのコラボでは、合計10限分(45分×10限=450分)の活動を行いました。期間中は、毎週みらプロのメンバーが授業時間に学校に出向き、その時間は子どもたちが主体、みらプロメンバーがサポート(ファシリテーション)役、担任の先生は見守り役、といった立ち位置で進みます。

  • 授業参加人数:生徒、担任、みらプロメンバー2名、たまにメディアの方
  • 授業場所:持ち込みしたカーペットを敷いた教室、または校外、職員室
  • 教室内で使用したもの:模造紙、ポストイット、ペン、電子黒板、パソコン(インターネットも)

学校との連携方法

少人数の学校のため、先生、生徒、保護者の人数もとても少ないです。そのため、日頃からコミュニケーションが取りやすい環境にあります。

今回のみらプロでは、基本的には学校側は担任の先生だけが見守る形で参加していたので、活動内容についてはこのサイトで掲載するレポートや、担任の先生、子どもたちから聞いて把握していただく他、校長先生には毎週1回行っているみらプロのチームミーティングに参加していただきました。週1回のミーティングはZoomを使って行っています。議事録は共有しやすいようにGoogle DocやHackMDなどのウェブアプリを使っています。

男木小中学校のグラウンド。小さな校舎が右手に見えます。

みらプロのフレームワーク

今回のみらプロでは、インド人女性教師のキラン・ビア・セシ氏が発案した「Design for Change」というプログラムを参考にしています。Design for Changeでは、次の4つのステップで活動を進めていきます。

1. FEEL:頭で考えるのではなく、五感で感じたことを言葉にします

2. IMAGINE:望ましい未来をイメージし、現状の課題をどう変化させるのか、その方法を自由に想像します

3. DO:想い描いたことをもとに作成したアクションプランに沿って活動に取り組みます。活動内容や変化の様子を記録します

4. SHARE:どうしたら伝わるのかを考え、自分たちの活動が起こした変化を学校、地域、世界に共有します。それが素晴らしい「連鎖」を起こすかもしれません!

出典:Design for Change実践ガイドブックより

Design for Changeは対象が小学校高学年から高校生、地域が抱える問題解決を軸にしていますが、みらプロでは小学生が対象となることからDesign for Changeのガイドブックにあるワークシートは使わず、より自由にアウトプットをしてもらう、また問題解決に限らず子どもたちがしたいことに焦点をあてることにしました。

小学生が取り組んだブランコ作りの流れ

下の図はDesign for Changeを参考に取り組んだ、みらプロの第1週目から6週目までの大まかな流れです。今回、子どもたちは「島をもっと楽しい場所にするためには?」という質問からブランコを作る企画を考えて実行しています。

学校での授業時間が終わった今、子どもたちは3つ目の「DO」にあたる部分を続けて取り組んでおり、材料調達や場所の選定をしています。(下の図の時間数は授業外での時間も含まれています。)

このプロセスを見ると、学校の科目単位で考えた場合、図工で5(ブランコ案をスケッチ)、算数で7(材料の木材の寸法を図る)と9(設計図づくり)が該当すると思われます。総合の授業と考えた場合は、地域や学校関係者を巻き込んだ「土地探し」「協力者探し」「プロに教わる」部分も含まれるかもしれません。

子どもたちに生き生きとしてもらうのは意外とむずかしい?

学校での取り組みで特に大事だと感じたのが、主体性を引き出すための工夫です。

特に学校でこのような活動をする場合、既存の先生と子どもが教室の前後で向き合い、先生が指導するスタイルの授業では、主体性が生まれることは難しく、またその授業を終えた子どもたちに、「自由に発言して、自分たちでやっていこう」と伝えても、ガチガチに固まった状態から抜け出すのは安易ではありません。

発言しやすい環境づくり

みらプロでは、このことを事前に考えて、子どもたちの日常から脱出するきっかけ作りとして、次のようなことを行いました。

  1. 持参したカーペットに円形に座って活動に取り組む
  2. 第1回目で発言のルールづくりをしたこと(先生含む全員で発言、共有)
  3. 最初の数回は授業前にアイスブレイクのゲームをしたこと
  4. 何よりも子どもの意志を尊重すること

こうしたことを通して、最初の4限分ほどは子どもたちが意見や行動に少し躊躇する場面も見られましたが、活動が活況に入った設計図づくりや、材料探しなど具体的な活動内容になると率先して取り組めるように。

主体的に取り組む子どもたちの変化としては、授業終了を知らせるベルが鳴っても続きをしたがる、次に進めることを自主的に考え、発言するようになる、質問や意見が積極的に出てくる、ということがありました。

また、初めての設計図の作成や自分たちだけではブランコが作れないと分かったときに、大人や出来る人に頼る行動にでたり、分からないことは分からないと言う、出来ないことは人に頼る、など必ずしも自分たちがすべてを上手にできなくても良いのだ、ということを体験できたのも大きな学びだったと思います。

時間を決めない

例えば、学校の授業の場合「10分考えよう、この授業が終わるまでに○○を完成しよう」など時間を区切って授業を進めますし、登校時間、給食の時間、門限、寝る時間など大体のことは時間を目安に行動します。みらプロでは、時間を区切らず、話し合いも終着点が見えたらおしまい、話し合いが終わらなければ終わるまで気長に待つ、ということをしました。(不思議と、アイディアを出す子、脱線したら軌道修正する子といった具合にうまく役割分担が出来ていました)。ただ、授業としての10コマ分が終わる数回前には「3月X日で学校でのみらプロはおしまい」という話をし、ずっと学校で続けていけるわけではないということは伝えたところ、この期間が終わるまでに取り組みたいことのリストが挙がり、進捗が早くなった気もします。

ゴールを提示しない。先回りしない。

大人だからこそ想像できる問題になりそうなこと、これを決めないと次に進めなさそう等など、たくさんあるのですが、分かっていても言葉には出しません。子ども自身が考えて行動し、問題にぶつかったら、一緒に考えてみる、そして行動するのをまた見守る、ということを繰り返して来ました。自分が決めて進めて来たことには、子どもたちも「自分たちのもの」という意識が高まり、主体性が生まれたと思います。

これまでの授業のレポート一覧

今回の3−4年生が取り組んだブランコ作りプロジェクトは現在も進行中です。休校中にも少しずつ議論を進めて、ブランコが出来上がることを目標に動いています。今後もその様子をこのウェブサイトで掲載していきます。